Greeting企業長挨拶

また春が来ました。満開の桜を掲げて。公立八女総合病院企業団は、4月から新たに医師14名、研修医4名、看護師7名、介護福祉士4名、理学療法士1名など30名の職員を迎え、新たなスタートを切ることができました。皆さまのご尽力に感謝申し上げます。私が八女に赴任して一年が経ちました。道元禅師の歌を思いながら、院長室から美しい立花町の山々を見ています。
我山を愛する時、山主を愛す
当院は、昭和24年に八女民生病院として「住民の力」で創設されました。食料が豊富で戦災のなかった八女には、戦禍に遭った近隣の市町村の住民だけでなく、大陸からの帰国者などを含め人口が急増し、医療は崩壊の危機に直面していました。そこで、八女郡28町村の民生委員が団結して福岡県に働きかけ、福岡済生会に運営を委託して「八女民生病院」が誕生しました。当院の誇るべき歴史です。それから数えて今年は76年目になります。
私たちは、76年間、再三の危機を、住民、構成自治体、大学病院、医師会など地域の皆さまにこれまで支えられ、乗り越えてきました。これからも皆さまに支えられながら、住民と地域の医療を支え続けることが私たちの役割です。
4月1日のオリエンテーションで、私は新たに入職する医師たちに、「人生において『もうひとつの半分』を考えたことがありますか」と問いました。「利己」と「利他」ということです。勉強して良い学校に入り、良い職業につき、良い仕事、より良い収入、良い結婚、良い家庭を目指すことは、自分のため、すなわち「利己」であります。しかし、それは人生の半分でしかありません。「利己」の内容であるお金や名誉などの価値はわかりやすいですが、大切なのはもうひとつの半分である「利他」ではないでしょうか。孝行、奉仕、布施、共助、公益などの「利他」は、わかりにくい価値かもしれません。しかし、災害に直面し自分のこともままならない過酷な環境下でも「利己」を度外視し、嬉々として他の被災者のために働く人々がいます。人は自分だけでは、幸せにはなれません。他人を幸せにすることでしか幸せになることはできないのです。医療もまた「利他」の行為のひとつです。公立病院の職員は、人生の「もうひとつの半分」である公共の利益をつねに意識する必要があります。難しいことではありません。目の前の患者さんに情理を尽くすということがすべてです。
1月下旬には八女市、広川町の三カ所で住民説明会を開き、住民の皆さまの声を直接聴き、当院にたいする熱い思いを知る貴重な機会となりました。 私たちにとって最も大切なものは住民の皆さまからの信頼です。私たちは、医療者と患者が互いに向かい合うのではなく、「共に同じ方向を向く医療」を目指します。 今後とも、公立八女総合病院をよろしくお願い申し上げます。
田中 法瑞(たなかのりみつ)/福岡県柳川市出身 昭和33年生まれ 慶應義塾大学経済学部、佐賀医科大学卒 久留米大学放射線医学講座入局後、ジュネーブ大学脳神経放射線科に臨床留学 久留米大学医学部教授(令和6年3月まで)専門分野:カテーテル治療、画像診断 令和6年4月より 公立八女総合病院企業団企業長 / 公立八女総合病院院長 久留米大学医学部客員教授 / 九州大学医学部臨床教授